地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2007/02/20 20:29

『単発 奇妙な日常4』

 


・試食会

 


荒島は、料理が嫌いではなかった。
好き、と言えるくらいだろう。


しかし最近、新しいメニューを作り上げようとしている荒島に、
妻は頭を痛めていた。


「何か足りないな」

そうぼやいてから、少し考え込んで、

「そうだ、辛味だ」

と、まるで大発見でもしたかのように胡椒引きを持ち出す。

 

妻がフォークを刺そうとした皿に、荒島は素早く胡椒をかけた。

落ち着いて食事が出来ない。
妻は肉を切り分けて、口に運んだ。

「どうかな」

荒島は、期待するような目で妻を見た。

「別に胡椒をかけなくても、美味しいんじゃない?」

 


味覚音痴の妻には、どうでもいいことだった。
でも妻の味覚を、荒島は知らない。

知ったところで、荒島はこの試食会を止めることはないだろう。

荒島も、新メニューなんてどうでもいい話なのだ。

 

何故なら荒島は、一週間後には投げ出しているのだから。