地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2007/02/20 20:25

『単発 奇妙な日常3』

 


・目的

荒島の母が死んだ。

老衰だった。
だから荒島は、悲しいというよりも、労いの気持ちで
見送ることが出来た。

この前里帰りした時には、変わらない笑顔で迎えてくれた。
老衰というのは、急なことだ。

荒島は、子供の頃を回想してしまわないように努めた。
涙が出てしまいそうだったからだ。

通夜では、懐かしい友人とも再開した。

「よお荒島。変わったねえ」

ひとり息子である荒島は、喪主をやっていたから、相手は
その変化した外見でも荒島だと気付いたのだろう。
しかし荒島は、その禿げた男に、心当たりはなかった。

男は笑う。

「わかんねえか。松山だよ」

「おお、懐かしいなあ」

松山は、中学時代の荒島の親友だった。

「面影もないねえ」

松山は、己の頭をべちりと叩いた。

「まあ、俺はここが随分淋しくなったからな」

「ところで、嫁さんは」

荒島は楽しんで、妻に止められても、苦手な酒を飲んだ。
しこたま吐いたが、たまにはよかった。

母を弔うための式なのに、と荒島が思ったのは、
酒が入るほんの少し前。

いい通夜だったね、と笑って、松山と別れた。