地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2008年

2008/06/30 17:32

『僕らと宇宙人』 「本当に来るの?」 不満げに石灰を撒く僕を見て、彼はにっこりと笑った。「当たり前だろう。本に書いてあった」 彼の顔は既に真っ白で、闇に紛れるような黒いTシャツもみすぼらしくなっている。 僕は額に流れる汗を両手で拭う。歌舞伎役…

2008/04/03 23:40

『熱帯夜』 お前は正しいことをしていると思い込んでいるんだよ。 友人の言葉に私は強く反論した。俺の何が間違っているんだとか、そういう素直な言葉を選んだと思う。 友人は子供のような私に向かって、何と言ったのだろうか。そうかい、と呆れて笑っていた…

2008/01/18 22:16

『彼女』 「俺のデスクの中にね、生きた人間が居るんだよ」 先輩の守江さんが、キーボードを叩きながら言った。「へえ。一体それはどんな?」「女さ。美人の女だよ。肉感的でね、蠱惑的な表情をしてるんだ」 守江さんは独身で、ふらふらとした掴めない中年男…

2008/01/18 21:31

『向こうからの物音』 私はあの扉を開けたことがない。 古びたアパートは土地の割に安い賃金で、私は直ぐにここに決めた。不動産屋は言いにくそうに言った。「もう1度申し上げますが、こちらの部屋は」「いわく付きなんでしょう。何度も聞きました。あなたも…

2008/01/17 20:33

『サバイバルゲーム』 銃声、悲鳴。「・・・・誰か殺られたか」呟くと共に、銃を握って振り向く。 俺の背後を取った悦びと、俺が銃口を向けた驚愕を一緒にしたおかしな表情の男。俺は無言で引き金を引く。 ―あとひとり。 頭の片隅の方に響くカウント。それは…

2008/01/17 14:33

『酒の海』 Aは大酒飲みで、そこまで酒の強くない私はその頃既にべろんべろんだった。 Aは大口を開けて喋る。酔っていてもいなくても変わらない。「お前、病気の方は大丈夫なのか」「病気?私が?」 何杯目かもわからぬビールジョッキに手を付けられず、私…