2018年
『ルナティック』 お題「餅と鍋」「月」 加藤の遺影はよく撮れていた。クラスでも目立たない地味な女だったが、こうして見ると美人だ。惜しい人を亡くしたと急に思う。 そういえば、一週間前は新月だった。だからかと俺は思った。 彼女が俺の前に現れたのは…
『選んだ鞄』 お題「米」「天秤」 第四次世界大戦が終わり、世界の人口は一割減って居住可能地域は半分になった。 日本も例外ではない。俺は瓦礫となった家から鞄と布団だけを引っ張り出し、段ボールで雨風をしのぐ生活をしていた。ここにいれば、一年ももた…
『眠い』 厳重に締めた鍵を開け、狭い部屋の中をふらふらと横断してベッドに倒れ込む。この部屋が割り当てられてからもう1年近くなるが、ベッドの上で眠ったのは数えるほどしかない。 今日で漸く仕事から解放される。とはいえ、喜びはそこまでなかった。 「…
『家庭用死者蘇生装置ゾンビナ~ル』 お題「右手が落ちてる」 うっかり眼鏡を踏み割ったのとはわけが違う。それでも妻はあっけらかんとしていた。「洗濯物運んでたんだから仕方ないって」 妻は先端のない右腕で、ソファーに項垂れる僕の背中を軽く叩く。「落…