2007/02/20 20:08
『単発 奇妙な日常2』
・トラブル
喫茶店の前の植え込みで、小さな犬が震えていた。
見れば木の根元に、しっかりとリードが括り付けられている。
「可哀想だなあ」
荒島は、独り言を言いながら、犬の愛らしさに、笑みを漏らした。
「悪いかね」
喫茶店から客が出てきた。飼い主だろう。
荒島は、犬から跳ねるように離れた。
「すみません。震えているので」
男は、スーツを纏えばやくざ、ボロきれならば貧乏神に
見える、荒島より少しばかり年上の男だった。
今は、襟付きのシャツを着ているから、
男が妙な風貌であることに荒島が気付くことはない。
「私がどうしようと勝手だろう」
「理解しかねます。この子がお嫌いなんですね」
荒島が正直に言うと、男は眉間に皺を寄せた。
「全く、君は、つまらないね。人生を棒に振っているようなものさ」
わけがわからない、とも言わなかった。
しかしこれは、荒島として心外だった。
荒島は、中々いい人生を送ってきていると自負している。
この無礼な男よりも、ずっと素晴らしい人生を
送っている筈だ、と少しだけ憤慨した。
荒島は、揉め事を嫌っている。
だから反論は、胸の中に隠した。