地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2007/02/20 20:08

『単発 奇妙な日常2』

 

・トラブル

喫茶店の前の植え込みで、小さな犬が震えていた。
見れば木の根元に、しっかりとリードが括り付けられている。

「可哀想だなあ」

荒島は、独り言を言いながら、犬の愛らしさに、笑みを漏らした。

「悪いかね」

喫茶店から客が出てきた。飼い主だろう。

荒島は、犬から跳ねるように離れた。

「すみません。震えているので」

男は、スーツを纏えばやくざ、ボロきれならば貧乏神に
見える、荒島より少しばかり年上の男だった。

今は、襟付きのシャツを着ているから、
男が妙な風貌であることに荒島が気付くことはない。

「私がどうしようと勝手だろう」

「理解しかねます。この子がお嫌いなんですね」

荒島が正直に言うと、男は眉間に皺を寄せた。

「全く、君は、つまらないね。人生を棒に振っているようなものさ」

わけがわからない、とも言わなかった。

しかしこれは、荒島として心外だった。
荒島は、中々いい人生を送ってきていると自負している。
この無礼な男よりも、ずっと素晴らしい人生を
送っている筈だ、と少しだけ憤慨した。

荒島は、揉め事を嫌っている。
だから反論は、胸の中に隠した。