地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2006/12/14 06:22

『出世人』

 

いくら偉くなっても、私の出世欲が満たされる事はなかった。


小学校の時から毎年学級委員長を務め、中学校、高校では生徒会長をやった。
大学は希望よりも2ランク落としたが、中々名の知れたところに行き、
卒業後は親の意に反して中企業に就職。
だから、親孝行した。

学歴がものをいう社会で、私は直ぐに役を手に入れ、
あれよあれよという間に同期を追い抜き上司を追い抜き、
実力も認められ、ついには代表にまで上り詰めた。

年を喰って世代交代をした後、市会議員、市長、衆議院
どんどんハードルを上げ、気づいたら総理大臣だった。

 

 

来年の歴史の教科書に、私が載るらしいですよ。
あんまりヒゲとか、落書きしないで頂戴ね。
私、ヒゲ似合わないんだよなあ。

 

―日本に、私よりも上に立つ人間は居ただろうか。


優しげに、笑いかける女性―ああ、この人か。

昨年から導入された、『天皇の民間選出』によって選ばれた、真山雪子婦人だ。
最初こそ狼狽していたが、慣れさせられたようだ。

象徴として、申し分のない美貌を持っている。

「偉い、というのは、努力を褒める言葉です。貴方は幼い頃から
 とても励んできているんですから、私なんかよりもずっと偉いですよ」

 

―この言葉で、私の出世欲は満たされたのか。

 


「でも、誰よりも偉くなりたいのです」

シワだらけの手の甲を撫でた。

 

「もう少し若ければ、世界征服でもしたものを」