2007/12/13 19:50
『ある屋上の感情』
さようならと、誰に言いたいのかぴんとこなかった。
高校の時に熱心に就職の世話をしてくれた先生も、悩みや愚痴を一身に受けてくれた
大酒飲みの友人も、何かが違う気がしたのだ。親や彼女に言うのも野暮ったいものだ。
元から居なかったのだろうか。
今、内定が決まった時に先生と抱き合って喜んだ会社の屋上から眺める地上は、
狭苦しくて大きかった。
豆粒にも見えない人の流れが、手に取るようにわかる。
路上に座り込み談笑する若者。
赤い風船を右手に、母の手を左手に掴んだ少女。
2枚重ねのティッシュ配り。
誰かの笑い声が聞こえてくる気がして、おかしかった。
―仕事に戻ろう。
1度の失敗により海外赴任なんていういじめ人事を受けてしまったわけだが、
そう暗くなってもいられない。
日本の地にさようならを言うのには、もう少し先になるのだから。