地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2007/08/31 20:18

『絶望は目先にある』

 

やけに冷たい、強い風が吹いた。
僕のシャツははたはたとなびき、僕は寒さに身を震わせる。
辺りはもう、漆黒の闇だった。見下げれば、黒い川に灯篭でも流しているように、
いくつもの丸い光が直進している。向かう先はあの世か。
いや、光は決して1方向のみに進んでいるわけではない。
僕から見れば右から左、左から右、とパターンはふたつだ。
魂が戻ってきてしまうなら、あちらはあの世ではない。
そこで僕は、やっとその光が車のヘッドライトであることに気付いた。
忙しなく、まるで何か、見えない恐怖に追われているようだ。
少し大きな光が通ると、足場がぐらぐらと小刻みに揺れた。
高所恐怖症ではないものの、さすがにヒヤッとする。
何故だか僕は、巨大な斜張橋の主塔に立っているのだった。
四方にケーブルが張られ、僕が立つ分だけの足場がある。何処にも梯子や、
それに相当するものはない。下りる方法と言われて思い付くのは、
ケーブルをつたるか飛ぶくらいだ。ヘリコプターか何かにさらってもらう手もある。
だから僕は、途方に暮れているのだ。
助けを請う術はない。風に打たれる襟が、状況を見せ付けるように、休みなく頬をくすぐる。
シャツやジーパンをケーブルに引っ掛けて、それに掴まって滑り降りることは果たして
可能だろうか。公園にある、滑車で滑る遊具のようなものではないか。
その前に、体重を支え切れずに切れるか、摩擦で切れるかするのではないか。
やるならジーパンだ。
しかし、ケーブルは僕のための足場から1メートルくらい下にある。屈み込んで
作業をする-ジーパンを脱ぐ前に落ちない自信は、余り、ない。
ならば最早、外部からの救出を待つだけである。
今は夜だから僕の存在に誰も気付かないが、夜が明ければきっと救いは訪れる。
毎朝太陽が昇るのと同じように、絶望には必ず救いがある。
そう思うと、急に安心して笑みさえ漏れた。明日の希望に向けて、小さく笑う。
と、突然爆音と共に光が発生した。
灯篭のようなヘッドライトとも違う、炎の塊が海の下から発射されたような光だ。
僕の背くらいしかない小型の戦闘機が、僕の真横を通りすぎる。
それは、悲鳴のように聞こえた。
眉をひそめながら、悲しく笑った。
あちらにも希望はないのだ。
この世が終わる前に、朝が来てくれたらいいと思う。