地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2019-03-07から1日間の記事一覧

2019/03/06 18:51

『ふたりきりバベル』 バベルの塔は神様が思っていた以上に木っ端微塵になった。俺たち人間はひとりにひとつ、違った言語を獲得して生きる苦悩を背負わされたのだ。 親が子に言語をインプットする以前に、赤児の脳には個人語が組み込まれている。この個人語…

2019/02/01 15:23

『最後の一人』 インフルエンザの流行で日本の人口が半分になった。なんだか知らんが俺たち人間の肉体は、元々インフルエンザには耐えられないようにできていたのだ。俺たちに与えられていた執行猶予の期限は切れた。それだけだ。 友達も好きな人もアイドル…

2018/11/23 15:09:27

『ルナティック』 お題「餅と鍋」「月」 加藤の遺影はよく撮れていた。クラスでも目立たない地味な女だったが、こうして見ると美人だ。惜しい人を亡くしたと急に思う。 そういえば、一週間前は新月だった。だからかと俺は思った。 彼女が俺の前に現れたのは…

2018/11/23 12:37:13

『選んだ鞄』 お題「米」「天秤」 第四次世界大戦が終わり、世界の人口は一割減って居住可能地域は半分になった。 日本も例外ではない。俺は瓦礫となった家から鞄と布団だけを引っ張り出し、段ボールで雨風をしのぐ生活をしていた。ここにいれば、一年ももた…

2018/06/14 19:56:41

『眠い』 厳重に締めた鍵を開け、狭い部屋の中をふらふらと横断してベッドに倒れ込む。この部屋が割り当てられてからもう1年近くなるが、ベッドの上で眠ったのは数えるほどしかない。 今日で漸く仕事から解放される。とはいえ、喜びはそこまでなかった。 「…

2018/02/27 12:57:47

『家庭用死者蘇生装置ゾンビナ~ル』 お題「右手が落ちてる」 うっかり眼鏡を踏み割ったのとはわけが違う。それでも妻はあっけらかんとしていた。「洗濯物運んでたんだから仕方ないって」 妻は先端のない右腕で、ソファーに項垂れる僕の背中を軽く叩く。「落…

2017/09/08 15:39:08

ここからプライベッターやツイッターに書いたものをブログに載せたやつです。 『縁の切れ目』 スマホゲームにハマって金を注ぎ込み続けたら、さっきサラ金から督促の電話が来た。でも今はイベント中だからまた後でな。 記録が残るカードを使うのが何となく嫌…

2016/09/19 00:03

『つき』 鈴木田がにやけ面でじろじろとこちらを見るので、俺は睨んでやる。お前には関係ない、と口の中で呟く。お前は俺の親じゃないし兄じゃないし友人でもない。ただの鈴木田だ。時間の感覚を狂わせた時計だ。つまりは糞の役にも立たない屑だ。人工太陽サ…

2015/06/24 12:53

『環状線』 昔書いたやつです。 足元を猫が走っていると思えば、それは揺れに合わせて転がるコーヒーの空き缶だった。長い夢を見ていた。どれくらい眠っていたのかと外の風景に目を遣るが、間抜けに口を開いた俺の顔が見えるばかりである。 車内は閑散として…

2013/01/22 17:43

『地軸傾けて海に沈める』 俺に通う血の温度を計ったって平均値平常値ド真ん中ストレートをぶち抜くフォッサマグナみたいに。平均的な俺は。 地軸が大いに乱れて飛び起きた。平々凡々とはいうがヘイキンというのが正しい位置にあるか?答えはノーだ。平均は…

2013-01-22 12:24

『後回』 奴の表面的な態度の、或いは深層に潜む悪漢めいた性質を見抜いてないではなかった。ドラッグの代用品の遣り過ぎでぶっ飛んでいた意識が戻ってくるまでの三日間、仏壇の菊が悉く茶色く染まるまでの三日間、まさかその三日で俺の努力がパーになろうと…

2012/12/17 14:54

『ラブフォーエバー』 グラスウェイの半分まで来た。 朝から休まず歩いているから少年の心も挫けてしまってとても。とても。 吉日だというので父に昼飯代を貰って旅に出ることにした。愛車は兄が鉄屑にしてしまったので、徒歩での旅を余儀なくされていた。目…

2012/06/21 20:37

『アルターエゴ』 ◆アルターエゴ 家庭の。ごたごたと試験期間が重なっていた。死ぬか殺すかの境で油彩画でも始めたら少しは救われるだろうかと腹の中だけで考えている。レポートが四本も溜まってんのに、材料もないから九段下から神保町の方に向かって歩いて…

2012/06/21 20:35

『ルナティック』 「変な顔してるな」 二十年に一度の年だというので焦燥感に襲われている。二十年しか生きていないし、来年地球が滅ぶことは確定事項なので俺が体験する二十年に一度はこれが最後なのだ。 だから、世界中が焦っている。タケウチが言うのだか…

2011/12/22 15:13

『ゆふづつ』 偏屈な奴と言う時の表情に近い。悪い夢の中で会ったような顔で、目ばかり細めて大口を開けて俺を見る。 俺の疲れているのを知られたくなくて、血の足りないというか、息切れする家系のにんげんなので、早く死んでくれればいいと思う。 ひゆうひ…

2011/11/07 18:45

『無題』 紙袋の中の彼女は俺の知る彼女よりも重く感じて、こうしたことで彼女の何が増えたのだろうと考えて歩いていた。その内に紙袋は重みに耐え切れなくなって、彼女は地に転がった。仕方なく俺は彼女を抱き抱えて、そうか片手で持っていたから重かったの…

2011/10/13 11:00

『今際の際』 病院は苦手だった。あの眩しすぎる光の中で死ぬのだけは嫌だと、多分分娩室の中から、思っていた。 目の前で閃いたそれの光に目が眩んで、俺は一瞬の判断を誤った。結果、俺の肉体は再生能力を失い、朽ちていくことになる。しかし精神は朽ちる…