2018/06/14 19:56:41
『眠い』
厳重に締めた鍵を開け、狭い部屋の中をふらふらと横断してベッドに倒れ込む。この部屋が割り当てられてからもう1年近くなるが、ベッドの上で眠ったのは数えるほどしかない。
今日で漸く仕事から解放される。とはいえ、喜びはそこまでなかった。
「部長、1人なんでしょう。食堂で飲み会やるみたいですから、どうですか」
同僚はそう言ったが、そんな体力は残っていない。とにかく眠りたかった。そのまま死んだって、悔いはないのだ。
厚木市から西の配給管理を任された時、俺は神奈川県の地理にいまいちぴんと来ていなかった。箱根がある方と言われれば、横浜の方より穏やかに仕事が出来るだろうと思ったくらいだ。
だがいざ仕事を始めてみれば、土地が広く人口の少ない西側に避難所が多く建ち始めていることに気が付いた。神奈川県内だけでなく、国道を通って東京からも避難者が集まっているらしい。
それも当然だろう。都会では暴徒が大量に発生しており、装備もなしにぶらつこうものなら殺されるだけ運がいいという状況だ。
俺も独り身になってから田舎の避難所に引っ越したが、何故もっと早く決断しなかったのかと後悔が募る。
その苦痛に満ちた日々とももう、おさらばだ。
NASAの予想が当たっていればいい。俺は微睡む隙もなく、意識を手放した。
「風邪引くよ」
うつ伏せの背中に布が掛けられる。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
俺は瞼を持ち上げ、笑いかけようとした。そこでぷつりと、夢は途切れた。