地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2006/09/15 19:04

『発展した町を作ろう』

 


帰宅ラッシュの電車を降りたのは
何時間前の事だったろう、と思う。たった数分前の事だったのだけれど。
この町まで来ると降りる人は少なくなる。

 

空を見る。
冬のこの時間だというのに空はまだ透けたような青だ。
広い。何処までも広い。上の方は深い青で、
山の向こうはまだ白い。
星が1つ出ている。
いや、良く見れば2つ、3つとぽつぽつと。
上を見上げるとこの前切った短髪を揺らす冷たい風が
吹いて、体を震わせた。そしてよろめいた。

 

此処数年でこの無駄に只広い田舎町にも多少、本当に少し近代化のさざ波が
立ったのである。
空は街灯で薄明るく照らされ、中途半端な青を作るのだ。
此処は中途半端に田舎だ。
山ばかりで高い建物もほとんど無い。
その癖交通量が多いので空気が悪い。
山の向こうは西か。
太陽が沈んでいるのかもしれない。
方角に疎い、というか興味の無い、それに次いでこの町にも興味が無い私には
そうなのか確信は持てない。
大体方角というのは何に使うのだろう。
遭難した時に方位磁針を使っても方角が解らないからしょうがない。
そんな事はどうでも良い事なのだが。

西なら良いと思う。解り易いから。
しかし山の向こうが発展した都市ならどうだろう。
それで空を照らしているのなら嫌だ。
向こうはもっと明るいと思うと嫌だ。
空は何処まであるのだろう、と思うと嫌だ。
大体縦に見て何処から何処までが空なのだろう。
私は空の何処から何処まで見えているのだろう。
山の向こうからはこの薄明るい空は見えているのだろうか。
私たちは、限りの無い、無意味に広い宇宙を見ているのだ。
山の向こうでも宇宙を見ている。

 

どうせ向こうはまた山だけれども。

 

吹き抜けの美術館の天井を一階から見上げたような、
気持ち悪さが込み上げてきたからだ。
足を戻して、真っ直ぐ前を見る。
冬が来れば、また年が明けて春が来る。

早く帰りたいな。
寒いから。
犬に吼えられたし。
上向いて歩いてたから
漫画みたいな事仕出かしちゃったし。
やんなっちゃうな。

そして私は足早に家路に着いた。

襟を直したら変な棘が指に刺さって痛かった。