地獄の回想録

2006年からやっているブログの記事を機械的に貼り付けました。

2013/01/22 17:43

『地軸傾けて海に沈める』

 俺に通う血の温度を計ったって平均値平常値ド真ん中ストレートをぶち抜くフォッサマグナみたいに。平均的な俺は。
 地軸が大いに乱れて飛び起きた。平々凡々とはいうがヘイキンというのが正しい位置にあるか?答えはノーだ。平均はいつでも主観的だ。どうしても自身の方に傾くもんだ。
 一口に枠組みだけを話したって何にもなりゃしない。俺は日本人で!それがどうした。お前の意見は聞いてない。お前の意見はお前の意見だからだ。干渉するな!

 そう、飛び起きた俺だ。俺はどうしたかというとまず便所に行ったね。
それでからどうしたものかと考えることにした。地軸がズレるというのは大問題だ。地球は何度だか知らないがちょっと斜めに傾いている。斜に構える地球ということだ。粋がってんじゃねえよ!道のド真ん中で吐く連中が朝からグッモーニンの挨拶がわりにゲロだぜ。俺はドロドロの道を走り抜けて心中のお誘いに行った。
 幽霊みたいに青白い顔した女が俺の脚を引いてスリーパーホールドを決めてきやがる。そういうイカレた連中を物理的に踏み越え乗り越えして、俺は物理的に君の元に辿り着いた。その頃には返りゲロ塗れで、まあいっかななんてラフな気持ちで来てしまったことを激しく後悔、反省すれども着いてしまったもんは仕方ない。ハイツ吉宗402号室のインターホンを狂ったように押した。狂ったように押させたのは君だ。早く出てくれないから。
 郵便受けから声を掛けると君の嘔吐いた一瞬間後に吐瀉物がびたびたタイルを叩く音がした。こいつも吐きやがる!でも俺は大丈夫かい大丈夫かいなどといって励ます。開けとくれよとノブをがちゃがちゃやるが一向に開く気配がない。裏切り者め。俺は思い付く限りの罵倒を浴びせて、思い付かなくなったところで立ち去った。

 地軸があれになっても平気なのはどうやら俺くらいらしい。免疫でもあるのかしら。なら俺から特効薬を作ったら製薬会社も俺も大儲けなのではないか。俺は心持ち真摯な顔付きをして背筋も真っ直ぐゲロロードを闊歩、この場合のマッスグな背筋っていうのは普遍的なもんじゃなくて、何故なら地軸が傾いたから空と大地の平行線も狂う狂う、だから一応俺なりのマッスグを貫いた背筋で歩いていた。製薬会社の場所なんか知らんので便宜上の真っ直ぐで歩いていったら海に出た。何かちょっと俺から見て右側の方が水が多い。コップの中の水だね。それでも水平線はちゃんと在る。
 そういや死に損ねたっけ。心中の約束はもっと遠い昔に1度してる。今度こそとでもいうつもりだったのか、でも昔のあの子は君じゃない。こんな辛い目に遭うのなら死んでやろうと思っていたのさ!俺たちは首の皮一枚でどうにか生き延びた。教師の匙加減ひとつで。きったねえ人差し指で。
 約束した死に場所は海じゃなかったし俺は泳げないし風がべたべたするし正直海なんて大っ嫌いだけど、それでも感傷的にはなるね。今頃魚たちはどうしてんのかしら。もう地球を脱出したのかね。穿った見方をすれば人類の横暴を考えればこうなって当然ということだね。でも地球を動かしてんのは人間じゃないからそういう理屈は立たない。1億も2億も生きてちゃ色んなことがあるさ。そういうことだ。だから俺は「宇宙から使者が来て地球に対して酷いことばっかやってる人類滅ぼしちゃうよ系」の話が嫌い。都市に住む人間だけが出来る発想だ。そんな話今のところふたつしか知らねーが。ふたつも知ってるなんて。大体そんな糞下らねえ話がこの世に少なくともふたつは存在するなんて!
 俺は遣る方ない怒りに襲われて神経がバースト、フルスロットルでアバンギャルド、何それ?口を開くと叫び出しそうだから手でがっしり押さえ付けて海岸沿いを走っていった。ゲロよかマシだが砂に足を取られて走りにくい。そうだ。製薬会社に行くんだった。ボロ儲けの大金持ちで海原に札束浮かべて美女を侍らせ人生が変わりましたって厭らしい笑みを湛えんのさ、信じて下さい。世界を救いたいと思いました。俺の力で苦しむ人をひとりでも減らしたいと。
 スーツの男は値踏みするように、ようにっていったけど実際に目視だけで俺に値段を付けて鼻から短い息を洩らした。次に云うことはわかってるぜ。それで?だ。それで。それで。俺は。地軸が傾いて目が醒めたんです。助けて下さい。俺だけが無事です。吐きません。吐けません。苦しいのです。俺は。俺を。どうか。
「口を開いてみてはどうですか」
 俺は固く結んだ口を開いた。堰切って色んなものが溢れ出てきて涙もボロボロ出てきた。ボロボロ。でもそこに確かなものなんか存在しなかった。
「俺は何なのでしょう」
パラノイアだね」
「いや何処にでも居るよ。君のような人間は。こういうご時世だからね。いざってなるとそうなっちゃう子、多いんだ。だから気にすることはない。君は」
 平均的だよ。そうか。何処かで聞いた。ドストレートの回答だ。ストライク。だから覚えてる。そこから反論は始まったんだ。あなたがなければ今の俺はない。有難う。
「最後に何か、アピールしておきたいことはありますか?」
「俺から特効薬が作れますよ」
 俺はへらへら笑った。ゲロの臭いがやばかったけど、俺のだからいいよね。